画面の前で、数百年と数ピクセルが向き合う場所。From the Conservation Studio

渋谷東収蔵庫の修復室では、公開画像の確認、補正、アップスケール、再保存が日々行われています。

作業は、きわめて静かです。
大きな音を立てる機械はありません。
匂いの強い薬品もありません。
ただ、画面の前に座る修復師が、数百年前の線と、数ピクセル単位で向き合っています。

古い作品の画像には、さまざまな時間が写り込んでいます。
絵具の剥落、紙の黄ばみ、撮影時の光、保存時の歪み、データ化の際に生じたわずかな揺らぎ。
それらをすべて「汚れ」として取り除くことは、当館の考える修復ではありません。


残すべき傷があります。
整えるべき曇りがあります。
触れてはならない沈黙があります。


修復師の仕事は、画像を美しくすることではなく、作品が不自然に大きな声を出さずに済むよう、環境を整えることです。
時に解像度を高め、時に色を抑え、時に余白を残し、時に何もしない判断をします。

何もしないことは、もっとも難しい修復のひとつです。
なぜなら、作業記録に「何もしなかった」と書くためには、十分に見たという責任が必要だからです。

渋谷東収蔵庫の修復室では、今日も誰かが、画面の奥にある金箔の暗さを見つめています。
それは、未来の鑑賞者がほんの一瞬だけ「きらり」と感じるための、長い準備です。

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